はしがき
 平成17年(2005年)4月1日に施行された民法の現代語化に象徴されるように,制定以来100年を経過した民法の内実も大きく変容しつつある。
 法学部学生には,この民法の基礎を学び,現実に生起する事象に法的に対処できる能力を身につけることが求められている。
 本シリーズ『法学講義民法』全7巻は,学習者が民法の基礎概念と基本構造を把握し,法学部で修得すべき民法学の水準を充足できるように,構成,内容,叙述の仕方等の点で周到な配慮をしている。叙述に当たっては,各執筆者において,判例,通説を踏まえ,個別の学説の展開は極力避け,均質性を保つようにと意を用いていただいた。
 幸い,本書は,法学教育の現場で最前線に立って民法学をリードされている執筆者の協力を得ることができた。執筆者各位が,深められた研究のもとに簡潔に書き下ろされた本書は,民法を理解するために,十分に力を発揮してくれると思う。
 また,平成16年(2004年)4月に新制度として発足した法科大学院は,今や,第2年目の後半にさしかかろうとしている。新しい法曹養成制度の基盤をなす法科大学院であるだけに,どのような教材を用いてどのように授業を進めていけば制度の理念にふさわしい教育を実現できるのか,各法科大学院において様々の工夫が重ねられているところである。
 とりわけ,大学法学部での単位数の半分にも満たない時間数で,必要な基礎知識と理解力を培うことが求められている未修者については,教員・学生双方に重い課題が負わされているというのが現実のすがたである。
 法学部および法科大学院の教育に携わって感じることは,民法についていえば,教える側にとっても,学ぶ側にとっても,法学教育における質・量ともに最適のスタンダードテキストが欲しいということであった。
 『法学講義民法』は,このような要請に応えるべく,法学部学生を念頭に置き,併せて法科大学院未修者コースの学生にとっても最適の学習書として役立つようにとの願いをこめて企画されたものである。
 物権法は,有体物に対する支配のあり方を規律するものであるから,民法総則などと比べると具体的な場面を想像しやすいものと思われるが,それでも,現代社会においては物の支配のあり方も複雑で抽象的になっているので,できるだけ具体例をあげて理解しやすい記述をするように努めたつもりである。物権法の中で最も重要なのは,民法176条~178条に規定されている物権変動とその対抗に関する諸問題である。それ自体が様々な議論の対象になっているだけでなく,その理解の仕方次第で,債権法や担保法に関する諸問題の捉え方も変わってくるので,できるだけ他の分野の諸問題を関連づけて考えるように努めてもらいたい。
 なお,本書では,通読を繰り返すことによって理解が深まるよう,細部にわたる叙述は本文内に小活字にして,参照文献や判例の出典は欄外注に出した。本文の通読を容易にすることによって思考の連続性が保たれ,民法学の速やかな理解に資することができると考えたからである。判例については,本シリーズの姉妹編ともいうべき『判例講義民法I総則・物権』『同・II 債権』との連動を図った。
 最後に,この企画の趣旨に賛同して協力してくださった執筆者各位に対して,編者として心から感謝を申し上げる。また,悠々社社長の須藤忠臣氏の本書出版に対する並々ならぬ熱意に対し敬意を表したい。
 本書が民法の「全国版スタンダードテキスト」として愛読されることを願ってやまない。

 


 

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