はしがき
 シリーズ『法学講義民法』全7巻の第5巻として,本書を世に送る。本シリーズは,主として法学部生や法科大学院の未修者コースの学生を念頭に置き,学習者が民法の基礎概念と基本構造を把握し,法学部で習得すべき民法学の水準を充足できるように,構成,内容,叙述の仕方等の点で周到な配慮をしている。本書もその基本方針は変わらないが,内容の性質上,以下のような特徴がある。
 契約法は,「生きている」法分野である。その内容を創造していくのは,法律の条文ではなく,契約当事者の意思である。その意味で,契約法は,市民に法創造のイニシアティヴがあるという,民法の中でももっとも民法らしい分野といってよい。またそのことは,契約法が,取引社会の進展に非常に敏感に反応し,それによって変容する分野であるということを意味する。
 一方で,契約を組成する意思表示については,民法でも最も基本になる概念であることから,これまで歴史的な基礎理論の積み重ねがある。したがって,契約法の学習にあたっては,ことに契約総論の部分ではそのような基礎理論からの理解を怠ることなく,かつ契約各論の分野においては,契約を動態的に把握することが不可欠となるのである。
 幸い,本書は,法科大学院および法学部における法学教育の現場の最前線で民法学をリードされている魅力ある執筆陣の協力を得て,判例・通説を踏まえつつも,先端の議論と取引実態をも意識した,力のこもった叙述をしていただいた。「読みやすく,かつ読みごたえのある」テキストとなったと確信するものである。
 本書は,法分野でいうと,「民法」の中の「債権法」の中の「契約法」を講じるものである。民法典でいえば,521条から696条の部分が該当する。ただ,民法典という大きな法律の中の「第三編債権」の中の「契約」の部分に規定されていることだけを扱うのではなく,その周辺の,特別法と呼ばれるいくつかの法律で扱われていることも扱い,そもそも具体的な法律の規定がないところまでも扱っている。
 というのも,契約は,当事者自治の世界であるため,ほとんどの条文の規定は当事者意思が定まっていない場合に用いられる任意規定にすぎず,各当事者が原則として自由にその内容を創造できるものである。それゆえ,社会の進化によって次々に新しい契約が登場し,契約法もそれによって進化発展する。その意味で契約法は,まさに冒頭に述べたように「生きている」法分野なのであり,いわば現実が法律よりも常に先を行く分野であると表現してもよい(他の分野以上に法改正の議論などがなされるのも理由がある)。したがって,伝統的な理論を正しく把握する一方で,現実を見据えて,その動態をつかむ学習も必要であり,条文にない新しい契約についても学習する必要がある。そのような見地から,本書ではいくつかの新種契約についても1章を割いて記述している。
 なお,判例については,本シリーズの姉妹編ともいうべき『判例講義民法Ⅰ総則・物権』『同・Ⅱ債権』との連動をはかった。
 最後に,この企画に賛同して協力してくださった執筆者各位に対して,また,辛抱強く完成にこぎつけて下さった悠々社社長の須藤忠臣氏に対して,編者として心から感謝を申し上げるとともに,本書が,全国の幅広い読者に,契約法の新しいスタンダード・テキストとして歓迎されることを願ってやまない。
 

 


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