はしがき

 本書は,悠々社「法学講義シリーズ」の趣旨に従い,法学部の学生諸君が刑法の基礎概念と刑法学の基本構造を的確に把握し,法学部で習得すべき刑法学の水準に到達できるように,構成,内容,叙述の点で十分な配慮をして完成したものである。特に,叙述に当たっては,判例・通説を踏まえることとし,執筆者独自の主張はできるだけ避ける方針を採った。
 ロースクールの開設によって,法学教育は大きく変わりつつあり,それに伴って,法律学の書物も,ロースクール用,企業法務用,教養法学用といったように,多様になってきているように思われる。しかし,どのような目的で法律学を学習をするにせよ,学部において,きちっとした基礎知識・概念を身につけることが肝心であることは,いうまでもないことである。
 一方,情報化,国際化といった時代の大きな変化にかかわらず,わが国の刑法改正は長い間停滞していた。しかし,ここ数年,「刑事立法の活性化時代」とさえいわれているように,刑法に関連する立法ないし法改正が相次いでいる。本書の執筆に当たっては,当然のことながら,最新の情報に基づいて,これらに十分対応したつもりである。
 刑法学では,以前からいわゆる学派の対立ともいうべき根本主義の対立があり,それが刑法学の理解を困難にしてきたといってよい。私は,刑法典は一つなのに,それを解釈する刑法学が根本において対立するのは,学問のあり方としておかしいという考え方にたって,根本主義ないし学派の対立の克服を目指して刑法の研究を続けてきた。本書の共同執筆者は,私と同じような考え方にたたれる方々であり,その意味で,本書は一貫したものとなっているばかりでなく,分かりやすいものになっている。法学部学生および法科大学院未修者コースの学生にとって,最適の書になったと思われる。
 本書の出版に当たって,法科大学院の教育等で大変ご苦労の多い時期に,この企画の趣旨に賛同してくださり,予定通り脱稿してくださった共同執筆者各位に対し,編集者として深く感謝申し上げる次第である。また,本書の編集に当たられた悠々社編集部の佐々由貴子氏および須藤正臣社長には大変お世話になった。記して,厚く御礼申し上げたい。
 2007年3月

編者 大谷 實 

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