推薦のことば

 

 

 

 民事訴訟において、争いのある事実について真実に沿う認定がなされることは、訴訟当事者の期待するところであるとともに、憲法32条が定める裁判を受ける権利を国民に実質的に保障する上でも極めて重要である。真実発見は民事訴訟の理念の一つであり、証拠収集はその理念を実現するために充実したものでなければならない。一方で、その制度設計と運用に当たっては、手続保障及び訴訟経済の観点から適正かつ迅速に証拠収集が行われるよう望まれるところである。さらに、収集対象となる証拠に営業秘密や個人のプライバシーなどの秘密性の認められる情報が含まれる場合には、その秘密性の保持に対する配慮も欠かせない。また、依頼者と弁護士との通信秘密についても配慮が求められている。このように、証拠収集は、真実発見に資する重要な意義を有するが、他の複数の要請とどのようにバランスを取るかという問題意識の下で制度設計されなければならない。
 しかしながら、現状の証拠収集制度とその運用に対しては、必ずしも適切な調和を実現しているものではない。民事訴訟法上の文書提出命令の制度を駆使しても、真実解明に不可欠な資料を開示させることができない、同法が定めている証拠収集手段の中には、要件が厳しく、実務上ほとんど使われていないものが散見される、弁護士法が定める弁護士会照会に対し、十分な理由なく回答してこない照会先があるといった課題が残されている。
 当連合会では、こうした課題を踏まえて、民事訴訟法における各証拠収集手段や弁護士会照会について、これまでに複数の改正提案を検討し、公表してきた。また、最高裁判所との間でそれらを踏まえた協議を経ることで、提案が現実化する際に問題となり得る論点も抽出してきた。しかし、現時点においては、こうした提案が立法化される具体的な動きはみられない。当連合会においては、現状の証拠収集を制度面及び運用面で改善するべく各方面に働きかけ、その実現に取り組んでいるところである。
 本書は、こうした背景も踏まえて、証拠収集の現状と民事訴訟の未来を、理論的側面及び実務的側面の双方から描こうとするものである。
第1 部は小林秀之教授による主として理論面からの講演、第2 部は実務家を交えた多面的なパネルディスカッション、第3 部は主に個別の証拠収集手段についての実務を踏まえた論稿集となっている。現状が理論的に分析された上で、実務的な問題が多角的に検討されるという本書の流れは、読者の関心と理解を促進するものである。特に、知的財産関連法において先行している証拠収集制度の見直しの動きや、外国における証拠収集制度との比較法的考察は、今後の我が国の民事訴訟における証拠収集の在り方に大いに示唆を与えるものといえよう。
 本書の元となったのは、2016年8 月に行われた関東十県会の夏期研究会である。本書の想定される読者は、この研究会の参加者と同様に、主として弁護士であるが、民事訴訟法の研究者等にも、実務の現状を知り、将来の在り方を検討する上で、優れたテキストとなろう。本書が十分に活用され、我が国の民事訴訟における証拠収集がより良い方向に発展することを願ってやまない。

 

 平成29年2 月

 

日本弁護士連合会 
 会長 中本 和洋 

 

 

 

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