はしがき
 本書の企画は、『判例講義憲法 I基本的人権・II統治機構』(悠々社、近刊予定)の企画が始まった後の2001年の初夏に、その過程で生まれた。
 これまで多くのわかりやすい入門書は、ややもすると特定のトピックスを語るばかりになる傾向にあり、憲法の全体像がみえにくくなったため、大学生が最初に読む「教科書」や、「一家に一冊」の常備本としては物足りない面もあったようにも思われた。そこで我々執筆陣は、この一冊でなんとか憲法全体の見取図となり、さらなる学習の基礎となり、ときどきはここへ戻ってきてもよいような欲張りな本を目指してみた。さらに、高校の「政治・経済」や「現代社会」の授業の際の副読本に、と言っても過言ではないと考えている。
 そこで、憲法学の体系に忠実、という方向性は控え目にして、勉強しやすいと思われる順番で書くこととした。各講の最初に会話文を入れて導入とし、絵や図表をなるべく多く入れ、ビジュアル世代の要請にこたえようとした。会話文では、法学部1年生の大輔を中心に、その妹で受験生のまき、その父と母、そして飼い猫のドラなどに活躍してもらった。大学で最初に憲法を勉強する半年ないし1年は、六法を横に置き、まずはこの本をじっくり読んで、そして考えて欲しいと思う。

 さて、我々執筆陣は3人とも1960年代後半(昭和40年代前半)の生まれで、大ベテランが多いこの業界では若い、まだまだ駆け出しの研究者である。小学校入学の頃に高度経済成長が終わり、大学卒業前後にベルリンの壁が崩壊した世代であって「戦争を知らない子供たち」どころか「東京オリンピックを知らない子供たち」である。その分、それまでの世代とは異なる感性をもっているのかもしれない。
 3人は、大学卒業以降、東西の複数の大学で教養講義から法学部(法学科)の講義を担当し、現在では法科大学院の教員となっているなど、幅広い教育経験をしたという共通点を有している。特段、偏った立場に立つとも思われないが、それでも相互に意見を交わしながら、芦部信喜説や佐藤幸治説などの通説や有力説、それに判例に準拠する記述を心がけた。それらに理論的な疑問があれば、指摘を加えるというスタンスを徹底した。そして、優れた憲法関係の著書や論文が多いなかにあっても、そのような我々の経験や感性が新たな息吹を吹き込めるならば、この入門書を世に出す意味があると考えたのである。

 なお、本書の完成まで、多くの方にお世話になってきたが、この間、3名とも大学移籍か留学などの事情を抱えるなかで、辛抱強く叱咤激励を続けて下さった悠々社の須藤忠臣社長に特に御礼申し上げる。



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